今、通帳を見ずに「自分が自由に使えるお金はいくらか」と聞かれて、ぱっと答えられる人ってどれくらいいるんだろう、と思うんです。売上はそこそこあるはずなのに、なぜか月末になるといつもカツカツ。材料の支払いと税金の通知が重なった月に、思ってたより残ってなくて青くなる。これ、一人親方あるあるだと思うんですよね。今日は、その「よく分からない不安」を減らすための、口座の分け方の話をしたいと思います。
売上も生活費も税金も、ぜんぶ一つの財布から出ていく怖さ
会社員だったころは、給料が振り込まれて、税金も社会保険も天引きされたあとの金額が「使っていいお金」でした。あれって実はすごく親切な仕組みで、自分で何も考えなくても、手取り=自由に使える額だったわけです。ところが一人親方になると、入ってくるお金は全部いったん自分の口座に入る。そこから材料費も、ガソリン代も、生活費も、そして半年後や一年後に来る税金も、ぜんぶ同じ財布から出していくことになります。
そうすると何が起きるかというと、口座に100万入っていると「100万ある」と錯覚してしまうんですよね。でもそのうち20万や30万は、あとで税金や国保で出ていくお金かもしれない。材料の仕入れで先に立て替えている分もある。実際に自分のものとして使えるお金は、その半分もないことだってあります。この「見えている残高」と「本当に使えるお金」のズレが、資金繰りの不安の正体だと思うんです。
だから最初にやるべきは、節約でも増やすことでもなくて、「今いくら自由に使えるのか」を正しく見えるようにすることだと考えています。そのための一番シンプルな方法が、口座を役割ごとに分けることなんです。
まずは「事業用」と「生活用」、ここを分けるところから
いきなり細かく分ける必要はなくて、最初の一歩は「仕事のお金が動く口座」と「家計の口座」を分けること。元請けからの入金や材料の引き落としは事業用の口座に集約して、そこから毎月決まった額を生活用の口座に移す。生活費や家族の支払いは、あくまで生活用の口座の中だけでやりくりする、という形です。
これをやるだけで、確定申告のときの手間がぐっと減ります。通帳やアプリの明細を見れば、仕事に関わるお金の出入りがそのまま経費の記録になるので、レシートの山と格闘する時間が短くなる。青色申告で帳簿をつけている人なら、口座が分かれているだけで入力ミスも減りますし、税理士さんに頼んでいる場合も「これ何の支払いですか」というやり取りが減って、結果的に費用も抑えやすくなると言われています。
屋号付きの口座を作れる銀行もありますが、無理に作らなくても大丈夫です。今使っていない個人口座がもう一つあれば、それを事業用と決めてしまえばいい。大事なのは名義よりも「この口座は仕事のお金しか通さない」というルールを自分で守ることだと思うんです。
税金と国保のお金は「最初からなかったもの」として、よけておく
これが一番効くと思っているのが、税金・国保・年金用に、もう一つ「触らない口座」を作ることです。入金があったら、その都度いくらかを自動的にこの口座へ移してしまう。金額の目安は人によって違いますが、所得税・住民税・国保・国民年金をぜんぶ合わせると、所得のおおよそ2割から3割くらいになることが多いと言われています。不安なら、前の年の納税額を12で割って、毎月その分をよけておくやり方でもいいと思います。
この口座のポイントは「残高を見ないこと」です。見えると使いたくなるので、普段使わないネット銀行にしておくとか、キャッシュカードを財布に入れないとか、物理的に手を出しにくくしておく。そうしておけば、6月に住民税の通知が来ても、11月に予定納税の案内が来ても、「ああ、あの口座から払えばいいだけだ」と落ち着いていられます。
逆に、ここをやらずに口座残高だけを見て「今年は儲かったな」と設備投資や大きな買い物をしてしまうと、翌年の納税で一気に苦しくなる。いわゆる「黒字倒産」に近い状態です。稼いだ年ほど、翌年に払う分をきっちりよけておく。これは一人親方の鉄則だと思っています。
自分に「月いくら」の給料を決めてしまうと、波に強くなる
仕事には忙しい月と暇な月の波が必ずあります。夏場にドカンと稼いで、冬に落ち込む人もいる。その波をそのまま生活費に反映させると、気持ちも家計も落ち着きません。そこでおすすめなのが、自分に「役員報酬」みたいな感覚で、毎月決まった額だけ生活用口座に移すやり方です。
やり方はこうです。まず、直近1年分の入金を12で割って、月あたりの平均的な売上をざっくり出す。そこから材料費・ガソリン代・工具の更新費・税金と国保のよけ分を引いて、残ったうちの無理のない金額を「自分の月給」と決める。忙しい月に多く入っても、その分は事業用口座に貯めておいて、暇な月の給料の原資にする。こうすると、売上の波があっても手取りは一定になって、生活のリズムが崩れにくくなります。
貯まっていく事業用口座のバッファは、そのまま資金繰りの余裕にもなります。材料を先に立て替えないといけないとき、入金が遅れたとき、体調を崩して1週間現場に出られないとき。こういう「もしも」に、借入れじゃなく自分の蓄えで対応できる。理想は、生活費の3か月分くらいを事業用口座に置いておけると、かなり気持ちが楽になると思います。
おわりに
お金の話って、増やす方法ばかりが注目されがちですけど、一人親方にとってまず大事なのは「今いくら自由に使えるのか」を正しく把握できる状態を作ることだと思うんです。口座を役割ごとに分けて、税金は先によけて、自分の給料を決める。これだけで、漠然としたお金の不安はかなり小さくなります。
職人PRIDE(プライド)の中でも、こういう帳簿やお金の管理の話は、意外とみんな聞きたがっているテーマです。人には聞きにくいけど、みんな同じところで悩んでいる。そういう話を職人同士で気軽に相談できる場にしていけたらいいなと、職人プライドを運営しながら思っています。まずは口座をもう一つ作るところから、気楽に始めてみてください。

