「うちは長い付き合いの元請けさんが1社あるから、仕事には困ってないんですよ」——そう話す一人親方の方、けっこう多いんです。ありがたい話ではあるんですけど、その状態、実はけっこう危ういなと私は思っていて。今日はそのあたりを、社長目線で正直に話させてください。
「1社で回ってる」が一番あぶない、という話
長年付き合ってる元請けが1社あって、毎月そこそこの量をもらえている。これって理想的に見えるんですけど、裏を返せば「その1社がコケたら、自分も一緒にコケる」ということなんですよね。
実際によくあるのが、担当者が代わった瞬間に発注がぱたっと止まるパターンです。前の担当者とは十年の付き合いでも、新しい担当者にとっては「数いる協力業者の一人」でしかない。あるいは元請け自体が工事の波で急に暇になったり、最悪、資金繰りが厳しくなって支払いが遅れたり。こっちには何の落ち度もないのに、売上がいきなり半分になることが起こり得ます。
それに、取引先が1社しかないと単価交渉もしづらくなります。「この条件でお願いします」と言われて、内心きついなと思っても、断ったら次がない。足元を見られている状態から抜け出すには、やっぱり他の選択肢を持っておくしかないんです。一人親方は体が資本で、代わりがいません。だからこそ収入の入り口だけは、1本に絞らないほうがいいと思っています。
目安は2〜3社、いきなり広げなくていい
じゃあ何社と付き合えばいいのか。私の感覚だと、メインが1社、サブが1〜2社くらいがちょうどいいと思っています。売上でいうとメインで6〜7割、残りをサブで埋めるイメージですね。
大事なのは「いきなり5社6社に手を広げない」ことです。付き合いの浅い取引先ばかりだと、単価も条件も足元を見られやすいし、スケジュール調整で自分が振り回されます。まずは今のメインを大事にしながら、年に1社ずつでも「もしもの時に電話できる相手」を増やしていく。それくらいのペースで十分なんです。
サブの取引先とは、月に1件でも2件でもいいので、細く長く付き合いを切らさないことが大事です。半年ぶりに「空いてますか」と電話しても、向こうも「急に言われても」となる。たまにでも顔を出して現場に入っておけば、いざという時にすぐ動けます。閑散期にサブの現場が入るだけでも、精神的なゆとりがぜんぜん違いますし、「切られたらどうしよう」と思いながら働くのと「まあ最悪よそもあるし」と思えるのとでは、元請けとの交渉の強気さも変わってきます。
新しい取引先、どうやって見つけるか
一番多いのは、現場で一緒になった他業種の職人さんからの紹介です。電気屋さん、大工さん、水道屋さん——横のつながりから「あそこ人手足りないらしいよ」と声がかかる。日頃から現場で丁寧に挨拶して、きれいな仕事をしておくことが、そのまま営業になっているんですよね。
あとは地味ですが、自分の仕事の写真を撮りためておくことです。施工前後の写真、配管のおさまり、仕上がり、養生の状態。いざ新しい元請けと面談するとき、口で「丁寧にやってます」と言うより、写真を10枚見せたほうが早い。スマホのアルバムが、そのまま職人の履歴書になります。
もう一つが、協力業者を募集しているコミュニティや会社に、自分から面談を申し込んでみることです。職人PRIDE(プライド)のような協力業者のネットワークもそうですし、地域の同業組合みたいなものでもいい。面談というと身構えるかもしれませんが、実際は「どんな工事をやってきたか」「どのエリアで動けるか」「単価の希望」みたいな、ごく普通のすり合わせです。条件が合わなければ断ってもいいわけですし、まず話を聞いてみるだけでも視野が広がります。登録の条件や進め方は面談で確認できますから、気になるなら一度問い合わせてみるといいと思います。
取引先を増やすときにやりがちな失敗
取引先を増やすとき、一番やっちゃいけないのが「両方に良い顔をして、どっちも中途半端になる」ことです。同じ日に2件掛け持ちして両方遅刻、なんてやると一気に信用を落とします。増やすなら、自分がさばける量を冷静に見て、スケジュールは正直に伝える。「その日はメインの現場が入ってるので、翌週なら動けます」とはっきり言うほうが、長い目で見て信頼されます。
それと、新しい取引先だからといって単価を下げて入るのはおすすめしません。一度下げた単価は、まず上がりません。「今は安くても、そのうち量で回してくれるはず」という期待は、だいたい裏切られます。相場を下回る条件なら、無理に受けないほうがいいです。
焦って数だけ増やしても、疲れて体を壊したら元も子もない。あくまで「メインを補強する」くらいの気持ちでいるのがちょうどいいと思います。
まとめ
仕事の入り口を複数持っておくのは、欲張りでも不義理でもなくて、一人親方が長く続けるための当たり前のリスク管理だと私は思うんです。今1社で回っている人こそ、調子がいい今のうちに、次の一手を考えてみてください。職人プライドの面談なんかも、その選択肢の一つとして気軽に使ってもらえたら嬉しいです。

