先日、ある会員さんと現場帰りに立ち話をしていて、「うちの息子、継ぐ気あるんですかね」ってポツリと言われたんです。笑いながら話してたんですけど、目は全然笑ってなくて。ああ、これ職人PRIDEの会員さんの中でも、結構みんな抱えてる話なんだろうなと思って、今日はこのテーマで書いてみます。
「継がせたい」と「継がせたくない」のあいだで揺れる気持ち
正直な話、職人の親御さんに話を聞くと、気持ちが真っ二つに割れてることが多いんですよね。自分が積み上げてきた技術とか、お客さんとの信頼とか、屋号とか、そういうものを誰かに渡したいという気持ちは確かにある。でも同時に、「この仕事、今の時代に息子や娘にさせていいんだろうか」という迷いも抱えてる。天候に振り回される、体を壊すリスクもある、収入も安定しない月がある。自分が経験してきた大変さを知ってるからこそ、簡単に「継げ」とは言えないっていう、あの複雑な感じ、分かる人には分かると思うんです。
面白いなと思うのは、本人に聞くと「継ぐ気ゼロ」って言ってた息子さんが、実は現場の手伝いを頼むと嫌々ながらも道具の扱いだけは妙に丁寧だったりすること。口では継がないと言っていても、体に染み付いた部分があるというか。だからこそ親方の側も、「継ぐか継がないか」を早々に白黒つけようとせず、しばらく一緒に現場に入れてみて様子を見る、ぐらいの距離感でいいんじゃないかなと思います。
うちみたいに会社の形をとっていても事情は似たようなもので、技術って一朝一夕で身につくものじゃないので、「継がせるなら早めに」と思う一方で、無理に急かして本人のやる気を削ぐのも違うなと。結局、答えは一つじゃなくて、その家庭・その職人さんごとに事情が全然違うんだろうなというのが、いろんな話を聞いてきた実感です。
血縁だけじゃない「継ぎ方」が増えてきた実感
ここ数年で感じるのは、「後継ぎ=息子や娘」という前提そのものが、少しずつ崩れてきているということです。弟子として何年もついてきてくれた若手に暖簾を譲るケース、独立したい弟子に道具や顧客の一部を引き継いでもらうケース、あるいは近い業種の別の職人さんと組んで事業をまとめていくケースなど、形はいろいろ出てきています。血のつながりにこだわらなければ、選択肢は思ってるより広いんじゃないかなと。
実際、何年も一緒に現場を回ってきた若手というのは、家族以上にその親方の仕事のクセや取引先との呼吸を分かっていたりします。息子さんが別の業界で会社員として落ち着いてしまっている一方で、住み込みではないにせよ長年通ってきてくれた弟子の方が、よっぽど「次を任せられる」信頼関係が出来上がっていた、なんて話も珍しくありません。血縁にこだわりすぎると、目の前にいる適任者を見落としてしまうこともあるんじゃないかなと思います。
職人PRIDE(プライド)みたいなネットワークがあると、こういう時に地味に役立つと思っていて。普段から現場で顔を合わせて、腕も人柄も分かってる相手なら、いきなり赤の他人に事業を託すよりずっと安心できますよね。「うちは息子がいないから終わり」で片づけずに、日頃からの横のつながりの中に次の担い手のヒントがあるかもしれない、というのは伝えておきたい話です。
技術より先に渡すべきものがある、という話
継承の話になると、どうしても「技術をどう教えるか」に意識が向きがちなんですが、実際に現場をうまく引き継げてる人の話を聞くと、先に渡してるのは技術じゃなくて「信頼関係」なんですよね。長年付き合いのある元請けさんや施主さんに、後を継ぐ人を早いうちから紹介して、一緒に現場に入る期間をしっかり作る。いきなり代替わりを告げるんじゃなくて、半年とか一年とかかけて「この人にも安心して任せられますよ」というのをお客さん自身に体感してもらうプロセスが大事なんだと思います。
具体的には、まず打ち合わせの場に同席させることから始めて、次に簡単な現場を任せて自分は横で見ているだけにする、そして最後は逆に自分が助手側に回ってみる、というふうに段階を踏んでいく親方が多い印象です。急に「今日から彼が担当です」と言われるより、お客さんの側も心の準備ができますし、何より継ぐ本人が場数を踏んで自信をつけていけるんですよね。
あと屋号や電話番号、取引先の連絡先みたいな地味な情報も、実は結構バラバラに抱え込んでる職人さんが多い印象です。もし体調を崩したりして急に現場に出られなくなったら、と考えると、こういう情報を誰か一人にでも分かる形にしておくのは、後継ぎがいるいないに関わらずやっておいた方がいい備えだと思います。
継がない選択をしたときの「たたみ方」も考えておく
もちろん、後継ぎがいない、あるいは自分の代で仕事を終える、という選択をする人も当然いるわけで、それはそれで全く恥じることじゃないと思っています。ただ、その場合に大事なのは「いつまで現役でやるか」と「その後お客さんの現場をどうするか」を、元気なうちに一度は考えておくことなんじゃないかなと。急に体を壊してバタバタと廃業するのと、数年前から準備して信頼できる同業者に顧客を引き継いでもらうのとでは、お客さんへの迷惑のかけ方も、自分自身の気持ちの整理のつき方も、全然違ってくると思うんです。
実際には「引退します」と宣言するというより、少しずつ請ける件数を減らしながら、長年付き合いのあるお客さんについては、信頼できる同業者を紹介して顔つなぎをしておく、というやり方が現実的だと思います。道具についても、全部処分する前に「これ使うなら譲るよ」と後輩に声をかけてみると、意外と喜ばれることも多いです。長年手入れしてきた道具なら、なおさらです。
職人プライドの会員同士でも、そういう「もしもの時にお客さんを紹介し合える関係」を普段から作っておけると、いざという時にお互い助かる場面が出てくるはずです。継ぐにしても、たたむにしても、一番良くないのは「考えないまま突然その日が来ること」だと思うので、今日この記事を読んで、ちょっとだけでも頭の片隅に置いてもらえたら嬉しいです。
後継ぎの話って、なんとなく縁起でもない気がして避けがちなテーマですけど、元気なうちに考えておくからこそ選択肢が増えるものだと思います。焦らず、でも先延ばしにしすぎず、少しずつ考えていきましょう。

