最近、付き合いのある若い職人から「そろそろ独立しようと思ってるんですよね」って相談を受けることが、なぜか続きました。腕も上がってきたし、今の会社に大きな不満があるわけでもないけど、どうせやるなら自分の名前で勝負してみたい。その気持ち、すごくよくわかるんです。私も昔そうでしたから。
ただ、独立して最初の一年でしんどくなる人って、腕が悪いから食えなくなるわけじゃないんですよね。たいていは、お金の回し方と仕事の取り方でつまずく。今日は「独立するぞ」と決める前に、いっぺん立ち止まって考えてほしいことを、正直に書いてみます。
「腕はあるのに手元に金が残らない」がなぜ起きるのか
独立したての職人さんでいちばん多いのが、仕事はそこそこ入ってるのに、通帳を見るとぜんぜんお金が増えていない、という状態です。理由はシンプルで、材料をこっちが先に立て替えて、入金は工事が終わって一ヶ月、二ヶ月あとになるから。売上が立っていても、現金が手元に来るまでにタイムラグがあるんです。
会社員のときは、材料費も会社が払ってくれて、給料は毎月決まった日に振り込まれていた。この「あって当たり前」が、独立するとぜんぶ自分の管理になります。ここのイメージが弱いまま飛び出すと、売上はあるのに支払いに追われる、という妙な苦しさにハマります。
だからまず、独立を考えたら「入金までの数ヶ月を、貯金で耐えられるか」を先に計算してほしいんです。ざっくりでいいので、月の生活費、車のローンや保険、国保や税金の分。これの半年分くらいが手元にあると、精神的にかなり楽になります。
飛び出す前に、生活費と運転資金は分けて考える
「独立資金いくら貯めた?」と聞くと、工具と車の分だけ答える人が多いんですが、本当に大事なのはそのあとの運転資金のほうです。工具は一回買えば当分もちますが、運転資金は毎月出ていって、しかも入ってくるのが遅い。ここを甘く見ると、開業して三ヶ月目あたりでいきなり苦しくなります。
目安として、生活費の三ヶ月から半年分、それとは別に材料を立て替えられるだけの現金。この二つを分けて用意しておくと安心だと言われています。金額は人によって全然違うので数字は言い切りませんが、「工具代を除いて、無収入でも半年暮らせる」くらいを一つのラインに考えるといいと思います。
あとは、開業したらすぐ事業用の口座を一つ作って、仕事のお金と家のお金を混ぜないこと。これをやっておくだけで、確定申告のときの自分の負担が驚くほど減ります。独立初日にやってほしいことのひとつです。
「仕事をどこからもらうか」を一本に絞らない
独立するとき、たいていは「あそこの元請けさんが声をかけてくれてるから」という一社のアテを頼りに飛び出します。それ自体は悪くないんですが、その一社に食わせてもらっている状態が続くと、単価の交渉もしづらいし、その元請けの仕事が減った瞬間にこっちも一気に苦しくなる。
だから独立して少し落ち着いてきたら、意識して仕事の取り先を二つ、三つに増やしていってほしいんです。いきなり飛び込み営業に回れとは言いません。まずは同業の横のつながりを作っておくこと。忙しいときに応援を頼めて、逆に暇なときは仕事を回してもらえる。そういう関係が一つでもあると、波があっても持ちこたえられます。
うちがやっている職人PRIDE(プライド)も、もともとは「一人親方どうしが横でつながれる場所があったらいいよね」という発想から始めたものです。協力業者として仕事を受けられるかどうかや、どんな条件になるかは人によって違うので面談で確認してもらう形になりますが、独立したてで仕事のアテを増やしたい人には、選択肢の一つとして知っておいてほしいなと思っています。
手続きは「期限があるもの」から先に片づける
独立まわりの事務手続きって、後回しにしがちなんですが、中には期限が決まっていて、逃すと一年ぶん損をするものがあります。代表が青色申告の承認申請で、開業から二ヶ月以内、などと期限が決められていると言われています。これを出し忘れて白色のままいくと、控除の分だけまるまる損をします。
開業届、青色申告の申請、このあたりは独立を決めた時点でセットで調べておく。労災の特別加入をどうするか、インボイスの登録をどうするかも、早めに考えておいて損はありません。判断に迷うところは税理士さんや商工会に一度相談すると、自分のケースでどうすべきかがはっきりします。
逆に、屋号のロゴとか、立派なホームページとか、名刺のこだわりとかは、正直あとからでいいです。最初の一年は、目の前の現場をちゃんとこなして、お金の流れを安定させることが最優先。格好は、食えるようになってから整えれば十分です。
それでも独立したい人へ
ここまで脅かすようなことばかり書きましたが、準備さえしておけば独立はやっぱりいいものです。自分で段取りを決めて、自分の名前で仕事をして、その分がまるごと自分に返ってくる。あの手応えは、勤めていたころには味わえなかったものでした。
大事なのは、勢いだけで飛び出さないこと。お金の余裕を持つこと、仕事のアテを複数持つこと。そして、困ったときに相談できる相手を独立前に見つけておくこと。職人プライドのような場も含めて、一人で抱え込まない仕組みを先に作っておけば、独立一年目の不安はだいぶ小さくできます。応援しています。

